【演奏時間の謎】ジョン・ケージの4分33秒は4分33秒で演奏される曲なのか

2021年11月13日作曲家・音楽家・作品,ジョン・ケージ,4分33秒,4'33",Jhon Cage,ベルリンフィル

ジョン・ケージの代表作と言えば4分33秒。

初めて演奏を聴いた時の衝撃たるや。

音楽とは、芸術とは…色々と考えさせられる楽曲です。

前回のこちらの記事をツイートした時に掲載したジョン・ケージの4分33秒の動画にこのようなご意見頂きました。

記事の最後に出てくるジョーンケージの4分33秒の演奏動画が3分しかないのは大問題だと思う

https://twitter.com/piao_piano/status/1456736539568852993

その動画がこちら

指摘されるまで気にしてなかったのですが、指揮者が構えてから終わるまで約3分しかありません!

この曲は1~3楽章まで4分33秒間楽器の演奏をしないというのが一般的な認識なので3分で終わるのはに気になりますね。

少し気になるのが2楽章の1’45”あたりから約10秒画面が楽譜のアップになるところです。

編集されてるのかな?という疑問も浮かびます。

動画は2020年の11月に公開されています。

この演奏会はベルリンフィルが新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年11/2~30までロックダウンすることが決まり、せっかく戻ってきた音楽の場がまた「Tacet」する事に対しての表現だったようです。指揮者のペトレンコがロックダウン前日の11/1のコンサートでアンコールに4分33秒を選曲しました。

動画の公開時には演奏時間の短さについて書かれた記事もあり色々と憶測や意見が飛び交っていたようです。

YouTubeのコメント欄にも

  • テンポが速すぎる!
  • マエストロの解釈が…

といったものが見られます。

…テンポが速いのか(笑

しかしこれ、タイトルが4分33秒なのに演奏時間が4分33秒でなくてよいのか?というのは確かに疑問です。

その後Twitterでこの曲に関してリプでのやり取りがありました。

この曲を演奏されたことがある指揮者の茂木大輔さんから。

実際に3度ほど演奏されたことがあるそう!

…いい曲と思えるほどまだよく分からない(笑

やり取り中色々と調べて下さったようです。

こちらは発話者のぴあおさんがお持ちの楽譜。

この楽譜は1960年に出版されたバージョン。

この版には「全楽章の合計が4分33秒であれば各楽章の長さは自由である」と書かれています。

こういったリプの会話はワクワクしますね。

どちらにせよどうして4分33秒なのか違ってもいいのかは気になる所です。

で、

これをきっかけに4分33秒について色々と調べてみました。

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【演奏時間の謎】ジョン・ケージの4分33秒は4分33秒で演奏される曲なのか

【演奏時間の謎】ジョン・ケージの4分33秒は4分33秒で演奏される曲なのか

4分33秒の謎を掘り下げていきます。

  1. なぜ4分33秒なのか
  2. 初演の状況
  3. 楽譜のバージョン
  4. 続編
  5. 演奏時間が4分33秒ではない考えられる理由

なぜ4分33秒なのか

ジョン・ケージによって1952年作曲された4分33秒。

なぜこの時間になったの?と疑問に思う人も多いはず。

楽譜には1~3楽章まですべて「tacet」と書かれています。

Tacet(タセット、タチェット)は「声や音を出さない」という意味のラテン語。楽器や声を出さないことを示す音楽用語。多声の合唱やオーケストラのスコアで長い休みを指示する語。

引用 Weblio

偶然性の音楽をテーマにしていたケージは『4分33秒』の作曲に偶然の手法としてタロットカードを使用したと言われています。

やり方は手作りのカードに時間を書いてシャッフルし、カードに書かれた沈黙の長さを足して各楽章の長さを決めるというもの。

その結果

  • 1楽章30秒
  • 2楽章2分23秒
  • 3楽章1分40秒

合計4分33秒となりこれがタイトルとなりました。

初演の状況

1952年8/29にニューヨーク州ウッドストックのマーベリック・コンサートホールで開催された慈善コンサートで、デイヴィッド・テュードア David Tudor(1926-1996)が演奏しました。

マーベリック・コンサートホールは裏側は森林に向かって開放されていて、当日は雨が降り風の音やブリキの屋根にあたる雨音やそして聴衆が立てる音が流れました。

視覚的に「tacet」をピアノの鍵盤の蓋をつかって表現しました。

蓋を閉じて各楽章を開始、蓋を開けて各楽章の終了を示し、各楽章で違うペダルを踏み楽器から出る音を環境の音に混ぜました。

演奏時間はストップウォッチで第1楽章は33秒、第2楽章は2分40秒、第3楽章は1分20秒をきっちり図りました。

時間がたつにつれて客席はざわざわしはじめ帰ろうとする人もいたようです。

楽譜のバージョン

1952年の初演に使われた12ページの楽譜は大譜表。

どんな楽器でも演奏できると表紙に書かれていて縦に数本の線があり各楽章の時間を表しています。

翌年に友人のプレゼント用に作られた1953年のバージョンは白線に6本の縦線が入ってました。(自筆譜はこちら⇒HYPERARELLGIC

1960年に出版されたバージョンは1枚の紙であり、各楽章に総休止を表すtacetが指示されています。また全楽章の合計が4分33秒であれば各楽章の長さは自由であると書かれていました。

100周年記念版では3種類の書かれ方の楽譜が入っています。

こちらは初演時のオリジナル時間が書かれているバージョン。

こちらの楽譜は5kan.jpさんのサイトに掲載されていたもの。

画像引用 5kan.jp

説明書きの6行目 Howeverthe work may be performed by any instrumentalist or combination of instrumentalists and last any length of time.と書かれています。(この作品はどの楽器演奏者でも 楽器編成でも またいかなる長さでも演奏されて良い)

続編

1962年にケージが初来日した時に『4分33秒』の続編の『0’00”』が作曲されて草月ホールでケージによって初演されました。

一柳慧(いちやなぎ とし)とオノ・ヨーコ夫妻のために4分33秒の第2番として作曲しています。

また1989年の京都賞受賞のために来日したケージは記念コンサートで4分33秒の続編『One3』を作曲。11/14に名古屋市美術館で行われたコンサートで初演しました。

演奏時間が4分33秒ではない考えられる理由

3つの理由が考えられます。

  1. 動画が編集されている?
  2. 演奏時間は任意という指示のある版がある
  3. 「One」が演奏された?

動画が編集されている?

上述しましたが2楽章の1’45”あたりから約10秒画面が楽譜のアップになるところがあり、編集されている可能性があるとしたらそこ?という疑問があります。

2020年の11/1にライブ配信されていたようなので情報お持ちの方がいたら教えて下さい!

演奏時間は任意という指示のある版がある

上記の5kan.jpからの引用写真の楽譜には

「この作品はどの楽器演奏者でも 楽器編成でも またいかなる長さでも演奏されて良い」

と記されているので、この楽譜の解釈を用いたのであれば時間にはこだわらなくてよい。という事のようです。

「One」が演奏された?

4分33秒の続編の「One」という曲があります。

1989年の来日の際にコンサートを企画した藤島寛さんはケージに『4分33秒』の演奏を依頼したときに作曲されました。

正式なタイトルは

『One3 = 4′33″ (0′00″) + ト音記号のマーク』

ケージによると「=」の左側が曲名、右側が説明。

「4分33秒」に「0’00”」が含まれています。

ト音記号は作曲家ソフィア・グバイドゥーリナ(ロシアの女性作曲家)の頭文字Gを表しています。

グバイドゥーリナの概念である「内なる時計」に従うという指示で演奏時間は演奏者が体感で4分33秒を測るというもの。

実際にケージが演奏した時には12分ほどあったとか。

この曲を演奏したのであればストップウォッチに頼らない4分33秒の演奏はアリですね。

まとめ

ジョン・ケージの4分33秒の演奏時間について、2020年11月に行われたベルリンフィルの演奏の動画より検証してみました。

版によって注意書きの記され方が若干違うようですね。

調べれば調べるほど奥が深い楽曲です。

是非演奏してみたい!…笑っちゃいそうですけど。

おまけ

ジョン・ケージの4分33秒Tシャツが版元のペータースより販売されています。

$27.50

輸入すると約5000円くらいでアカデミア・ミュージックで扱われています。

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